ねぇ、脳内バニラ。
甘ったるいバニラの香りを纏った彼女に
「私、別にあなたじゃなくていい」
といわれ振られたことがあります。
「私、あなたといても得しない」
といわれ振られたことがあります。
失恋としてよりも、言葉の破壊力に打ちひしがれたのを覚えています。
「あなた、雨が降る土曜日の夜に、1本の傘を持って迎えに来てくれたよね。
わざとらしく傘を私に寄せて、肩を濡らすあなたのことが嫌いだった。
そんなことなら2人で濡れて帰りたかった。」
「あなた、私が悩んでるとすぐ、相談乗ろうか?って話を聞いてくれたよね。
そうかそうか、大変だったね。
って何も自分の思いは言わず、私の鬱憤を並べた言葉を馬鹿みたいに飲み込むあなたが嫌いだった。」
「あなた、私と歩くとき、そっと車道側に立って歩いてくれたよね。
私の歩くスピード気にして、ぎこちなくゆるやかに歩くあなたのつまさきが嫌いだった。
並んで歩かなくても、私はあなたの後ろ姿に惚れてたのよ。」
「小学校のとき、男子は聞いちゃいけない女の子だけの授業があったの。
そのとき男子は私たちにしつこく聞いてきたわ。それでね、私も大人になって思うようになったの。
男は女の前でこうすればいい、みたいな授業でもあったの?
肩を濡らせば女は喜ぶと思ってるの?
反論せずに話をただただ聞けば女は喜ぶと思ってるの?
車道側を歩けば女は喜ぶと思ってるの?
心配しなくてよかったのに。そんなことしなくても、私はあなたを嫌いにならなかったのに。
次はどうするの?
人肌恋しいって言ってる誰かに優しくするの?
誰かに勧められたイタリアンに誰かを連れて行くの?
あなたって、
短冊に書いた願い事と、
神社に手を合わせて願う事って
違いそうよね。
誰かに見せるための幸せな願い事と
自分の中だけの欲望のための願い事と。
いつまでも隣にいられますようにって、
それも授業でいわれたの?」
といわれ、振られたことがあります。
何にも言えませんでした。
冷えた雨の中、彼女の横顔を見つめて話していたら、自然と僕の肩は濡れていました。
伏し目がちに涙をこらえる彼女の目を見つめていたら、話の内容なんか入ってこなくて、大変だったねとしか返せませんでした。
一歩車道側を歩いたとき、歩道との段差で
「あ、私の方が背高いんじゃない?」といたずらっぽく笑ったのが忘れられなくて、癖になってしまっていました。
七夕でも、神社参拝でも、
「どれだけ時間が経っても、彼女が幸せでありますように。」
とだけ願いました。
あなたを幸せにできる相手は僕じゃなかったみたいですが、
必ず幸せになるはずです。あれだけ願ったので。
これからは何を願おうかな。
くだらない事でも神様は叶えてくれるかな。
『あの甘ったるいバニラの香りの記憶を、
僕の中から消してください。』