もう、遅かった。
プラネタリウム。
一つの星の歴史を知りたい僕。
「わー綺麗!あれ結んだらわし座なの?見えないね!ね!?」と笑う君。
ケースを選ぶのに何日もかける僕。
「また画面割っちゃったー!」とヒビを見せてきた君。
美術館。
作者の生い立ち、作品の詳細を知りたい僕。
「早く次のとこ行こ!お腹すいた!」と早足な君。
満月の夜。
月をしばらく見上げ、月が綺麗ですね、と試すように言った僕。
「えー、月がデブ!可愛くない!」と意表を突いた君。
まるで真逆だった。
僕は君と分かり合えないと思った。
けれど君は僕に
香水を振った、1通の手紙を書いた。
『字、下手だけど最後まで読んでね!』
と、甘く丸い字に、僕は確かに恋に落ちた。
好きだと思った。
寂しさは気温のせいだと、誰かは言った。
夏の気温は高すぎて、まるで誰かにまとわりつかれているような感覚だったのに。
秋には突然、暴力的な突き放され方をされたような錯覚に囚われるのは
夏の誰かの体温が消えるからだと、誰かは言った。
恋の旧字体は『戀』で、
言葉と心を糸で繋いで、
決して容易く離れないようにと、
作られた言葉だと言う。
マスカラを落とす男になるな。
口紅を落とす男になれ。
そんなことも言われた。
あぁ、なんだかくだらないことを
つらつらと書いてしまった気がする。
その手紙の最後に書いてあった言葉を
残してこの日記を締めくくる。
『私はあなたの彼女でいられない。
あなたは
私じゃなくて星を。
私じゃなくてケースを。
私じゃなくて説明書きを。
私じゃなくて満月を見てたでしょ。
私はこっそり、
あなたの横顔を見つめていました。
あなたと目は合わなかったけれど。
これからは、さようなら。』