性格がとてもいいです

性格がとてもいい人が書くとてもいい内容のブログです

先っぽだけそんなにしたらさ。

 

 

その子はストローの先を噛む子だった。

 

 

そういえば歯ブラシの先っぽも噛んでいて

 

不規則に散らばった歯先を見て

なんとも言えない気持ちになった。

 

 

僕が勝手に捨てたら

 

「なんで捨てたの、やましいことあるんでしょ」

 

と泣いてた。

 

 

怒りと悲しみに勘違いだよと

なだめるのにはかなり骨が折れた。

 

 

 

出会ったのはしばらく前、

 

飲み会で端っこ同士だった僕らは

飲ませ合いをしている友人らを横目に

 

好きなバンドの話で盛り上がった。

 

 

「新譜きいた!?なんかさあ、大衆に寄せに来たって感じするよね」

 

『めっちゃわかるわー、2014年あたりが好きやった』

 

「私も好き!ライブめっちゃ通ってたもん」

 

『ほんまに!?僕もいってたで、渋谷クアトロとか』

 

「待って!私も行ってたそれ!

ベースから音出なくなってめっちゃキレてたやつ?」

 

『それ!前会ってたんやね僕ら』

 

「すごいね、運命だね」

 

『運命、やね』

 

レモンサワーで乾杯して、

掘りごたつの下で親指同士で探り合った。

 

二人で飲み会を抜け出し、

カラオケで散々そのバンドの歌を歌った。

 

 

履歴の最後のページに

 

僕らと同じ曲を入れ続けている人らがいて

 

繰り返される夜の一部分なんだろうなと

悪酔いする安いお酒を一気に流し込んだ。

 

 

翌朝、隣で目が覚めたAM11:30

 

その子はコンビニで買って帰った歯ブラシで歯磨きをしながら

 

僕の方をぼーっとながめていた。

 

 

『おはよう、ごめん昨日』と乾いた声をかけると

 

泡にあふれながら

 

「なんで謝んの」と笑いながら洗面所に駆けていった。

 

 

深い話はお互い踏み込まない。

 

いろんな人を通り過ぎて、

途中停車のようにして僕らは落ち合ったんだと思う。

 

寂しい夜を生き抜くための二人だったのかもしれない。

 

いつか終わりが来ることを、

いやそんなに遠い話じゃないな

 

このゆるく流れる幸せは長く続かないことを

 

始まっていた時から悟っていたから

 

お互い、写真を撮らなかった。

 

消すのも悲しいし、

遡った時にふと目に留まるのも遣る瀬無くなる。

 

振り返ればすぐ後を追っかけてくる寂しさから逃げて、

瞬間のぬるま湯につかってたんだ。

 

体の芯から温まることはなくて、

しばらくして風邪引くこともわかりながら、それでも。

 

 

 

あそこのコーヒーめっちゃ美味しいんだよ、と

 

飲めない僕にすすめてきたその子のおかげで

 

ついには飲めるようになってしまった。

 

ブラックは無理だけど、ミルクと砂糖をまぜて。

 

 

正面に座ってコーヒーを飲むその子の長いまつ毛を褒めると

 

「まつエクだからだよ、騙されるよ悪い女に、注意するんだよ」

 

とまた僕の靴を足で挟みながらヘラヘラ笑っていた。

 

 

笑った顔がかわいい、ってあのとき素直に言えなかった僕に

 

今になって心底失望してる。

 

 

今頃どうしてるんかな、花粉症の時期やけど

 

今年も目を赤くしてるんかな。

 

 

さっき寄ったカフェで

 

-お席片付けますので少々お待ちください-

 

って待たされた席のグラスに転がったストローの先に

 

がしがしに歯型が刻まれとって まさかな、 なんて思ってん。

 

 

 

一枚だけ あった。

 

嫌がるやろなと思って あっち向いた瞬間に。

 

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