いったり、きたり
『好きだよ』と言われると
「いつまで?」と喉まで出てくる言葉をぐっと飲み込む癖があるんです。
女は言った。
続けて目を潤ませて
一生大切にするなんて、そんな戯言を信じた私のほうがどうにかしている、
我を忘れて恋したことが、恥ずかしくてたまらない。
一生続く恋愛なんてない。そう学びました。
と言った。
昔になにがあったの?と聞くのはやめた。僕が知ったところで、彼女の中ではもう
結論が出ていたようだったから。
恋をすると、人は本来の姿に戻されてしまう。
いくら強がって感情に栓をしても、とめどなく哀しさが溢れる。
仕事をしていても、友達と遊んでいても、ふと哀しさがこぼれそうになる。
憂鬱というよりも、やるせない空しさが、自分を一番に必要としてくれる人失った喪失感が
波のように打ち寄せてくる。
なぜこんな気持ちになってしまうのか。
一途に恋した気持ちを、色鮮やかに思い返してしまうからだ。
付き合っているときはその色がモノクロに見えがちだが
終わってしまった恋は、チカチカと嫌に華美になる。
夜中に突然、会いたくなること
思い出しただけで、枕をギュっと抱きしめてしまうほどくすぐったくなること
触れているだけで、満たされること
小さな言葉に、たまらなく傷つくこと
唇を重ねるたび、二度、三度求めてしまうこと
恋をすると自分をコントロールできなくなる、
自分がコントロールできる範囲の、作り上げた姿ではなくなってしまうから。
それが怖くて、恥ずかしくて、逃げてしまうのだろう彼女は。
別れが来るのは仕方がない、
早いか遅いかの違いだけだ。
大人になったつもりの恋は、そんな結論を心の真ん中に潜め、どんどん速度をあげていってしまう。
『あなたといたかった』と『一人で平気』をいったりきたり。