フィクション
一刻も早く夏が終わればいいのにと願います。
うだるような暑さが続き、花火や海や蛍と騒ぎ立て
なんだか街が騒がしくなる季節です。
ある男には気になる女がいました。
仮に男を『僕』とします。
僕には気になる女の子がいた。
好きなのかは分からない。けれどいつも虚ろ気で、今にも消え入ってしまいそうな彼女のことを気にしていた。
ふとした7月の第3週。
「お祭りいかない?」と彼女から連絡がきた。
二つ返事で「いく」と言い、玄関の鍵をかけるのも忘れて家を飛び出た。
祭りは人で溢れかえっていた。口数の少ない彼女とどうにか会話をしようと
僕は目に入るものすべてを口に出した。「唐揚げ屋さん多くない?」「小さい子の浴衣って可愛いね」なんとも面白みに欠ける言葉の数々。そうだね、と彼女はため息のように漏らす。
僕の隣を歩いているはずなのに、すごく距離はひらいて感じる。
「お祭りはいつぶり?」と聞くと少し間を置いて
「...二年ぶりかな。」と応える。誰と来たのなんて尋ねる野暮な僕じゃない。
「チョコバナナ食べたいの」と彼女が言うから必死に探す。
うん百とあるだろう露店には、結局一つもチョコバナナ屋は無かった。
ごめんねつまらなかったでしょ、得意の消え入りそうな声でまた彼女が言う。
「そんなことないよ」の言葉以外に何か言えるのなら誰か教えてくれ。
またいこうなんて、思っていても言えなかった。
後日、僕は知った。
彼女は元カレの姿を祭りの中で探していた。元カレと食べたチョコバナナが忘れられなかった。もう一度会って言いたい事があった。
僕じゃなくてよかった。祭りにいく名目が欲しかった。
それを知ってたら、僕は...と考えてみたが、どうせ喜び勇んで彼女のところへ飛んでいっただろう。馬鹿だな。
一刻も早く夏が終わればいいのにと願います。