性格がとてもいいです

性格がとてもいい人が書くとてもいい内容のブログです

いろいろありますよね

高校生の頃、行きつけの喫茶店があった。
学校の6限目が終わり、塾の授業が始まるまでの間
その喫茶店に溜まってカレーを食べるのを習慣にしていた。




古びた佇まいのその喫茶店では、常連のおじさんたちが、各々の特等席に座りコーヒーを啜っている。競馬新聞にマークをしたり、イヤホンでラジオを聴いたり、眠りこけたり、常連たちは思い思いに時間を過ごしていた。

ひとりだけ、そのおじさん連中の中では異質な”THE•学生が憧れる人妻”みたいな見た目をした美しい熟れ方をされているお姉様がいらっしゃって、私は視界の端で何度かチラチラと視線を送った。




そこであえてカレーを食べるのが乙な趣味だと思っていた。
「大人たちと同じ空気を吸える俺かっけー」と鼻高々だった。
学生はなんと300円でカレーが食べられる。しかも大盛り無料だった。割引シールが貼られているスーパーの惣菜コーナーの冷えたカツ丼よりも安い。安いのに温かくて美味い。高校を卒業してからしばらく経つが、あのカレー以上の”300円で得られる贅沢感”に出会えていない。


無愛想で無口なマスターと、反対にフレンドリーでたくさん話しかけてくれるおばさんで営まれている、夫婦経営の喫茶店だった。高校生の客が少ないからか、おばさんは仕切りに私に話しかけてきた。
「最近の高校生は何の映画見るの?『太陽を盗んだ男』みたことある?私あれ映画館で見てねえ…」と私の返答を待たずしてべらべらと早口で一方的に話してくれる厚かましさが好きだった。

私は内気で、あまり自分から人に話しかける性格ではなかったから、そういう強引さに憧れていた。
私が水を少しでも飲んだら継ぎ足してくれた。表面張力で水がステンドグラスの光を反射して揺れるのを眺めて頬は緩んだ。

厨房ではたまに夫婦喧嘩をしている声が響いた。常連のおじさんたちは慣れきっているのだろうか、誰も反応をしない。店のBGMと同じようにして聴いている。
「なんであんたはいつもそうやって!!!!!」
おばさんの高い声が厨房の暖簾を越えてこちらに届く。カレーを食べながら、全神経をそちらに傾けていた。
「いろいろあるだろうが。よかて、もうギャーギャー言うな」
「いろいろじゃないでしょ!!!!ちゃんと話さんね!!!!」
夫婦喧嘩の聞ける喫茶店は日本でここだけかもしれない。

あんなに思い入れはあったのに、大学受験合格を機に、喫茶店へと通うのは辞めた。「第一志望の大学に合格しましたよ!」とか「毎日ここで食べてたカレーのおかげです。私にとってのお守りです」とか、そういうラストメッセージを残し、おじさんとおばさんと写真を撮って残しておけば、少しは心温まる話になったかもしれないのに、「今この瞬間の出来事は、いつか大切な思い出になる」ということに私は気付くことができず、ただ時間の波に流されるように大人になった。

卒業して10年。帰省ついでに久しぶりにその喫茶店を訪れてみることにした。あの頃にはなかったGoogleマップの口コミには
「雰囲気は悪くないが、店主の愛想が悪い。二度といきません」「駐車場がなくて不便。ナポリタンの味はそこそこ」などと、雑多なものが書き込まれていた。「お前らごときにあの店の良さがわかってたまるか」と、顔の見えない”喫茶店評論家もどき”たちに唾を吐きながら店へと向かった。

店の前に立つと、メニューをただA4用紙に雑な字で書いただけのダサい張り紙と、”新型コロナ対策実施中!””感染防止徹底宣言”という国から支給されたステッカーとが混在していて、あの頃の淡い記憶に水を刺される。

扉をくぐると、ほんのりとカレーの香りが鼻腔をくすぐる。郷愁が鼻から胸に降り、ぐっと涙腺にまで駆け上がる。私は立派な大人になれているだろうか。あの頃眺めていたおじさんたちに年齢が近づいたけれど、彼らはどんな日々を過ごしていたのだろうか。

メニュー表はQRコード読み取り式に変わっていて、余計なことすんじゃねえよと思った。決済は現金だけだった。デジタル化進める順番が逆だろ。Suicaで払わせろ。

「お兄さんここら辺の人?」店のマスターが話しかけてくれた。高校生の頃は一度も話しかけてくれなかったのに!嬉しかった。大人の仲間入りした気分になった。あの頃よりは社会経験を踏んだので、当たり障りのない上部の会話も上手にできるようになった。

「今は東京に住んでて、高校がこの近くだったんですよ。塾行く前に週に3回くらいはここでカレー食べてました。まだ300円でやってるんですか?」

「そうだったとね!おっちゃんなーんも覚えとらん。今も学生さんは300円でやりよるよ。お兄さんはもう780円ばいね」
「歳とったこと痛感しますね」

奥から女性の店員が出てきた。あの頃のおばさんとは違う人で、美しい熟れ方をされたおばさまだった。思い出の海の底に沈んでいた記憶が急に水面に顔を出す。
(あの頃よくいたお姉様じゃないか?)

記憶は定かではない。しかし、多感な高校生の頃に痛烈に感じたあの”色気”というやつは、歳を重ねてからでも容易に思い出すことができる。


もう私が今後頻繁にこの店に通うことはない。アホなふりをできるようになったのも大人になった証拠だ。

「あの…ここマスターと、奥様でやってらっしゃいましたよね?たくさんお水ついでくれる奥様。よくお話ししてもらってたんですよ」


マスターは隣に並ぶ熟女に へへっ と一瞥して

「そら元嫁たい。別れて、今はこいつが奥さん。なんか恥ずかしかね」

「おー…そうなんですね…いろいろありますよね」

夫婦経営だと思っていたら奥様が変わっていた。

「いろいろありますよね」便利な言葉だ。

先っぽだけそんなにしたらさ。

 

 

その子はストローの先を噛む子だった。

 

 

そういえば歯ブラシの先っぽも噛んでいて

 

不規則に散らばった歯先を見て

なんとも言えない気持ちになった。

 

 

僕が勝手に捨てたら

 

「なんで捨てたの、やましいことあるんでしょ」

 

と泣いてた。

 

 

怒りと悲しみに勘違いだよと

なだめるのにはかなり骨が折れた。

 

 

 

出会ったのはしばらく前、

 

飲み会で端っこ同士だった僕らは

飲ませ合いをしている友人らを横目に

 

好きなバンドの話で盛り上がった。

 

 

「新譜きいた!?なんかさあ、大衆に寄せに来たって感じするよね」

 

『めっちゃわかるわー、2014年あたりが好きやった』

 

「私も好き!ライブめっちゃ通ってたもん」

 

『ほんまに!?僕もいってたで、渋谷クアトロとか』

 

「待って!私も行ってたそれ!

ベースから音出なくなってめっちゃキレてたやつ?」

 

『それ!前会ってたんやね僕ら』

 

「すごいね、運命だね」

 

『運命、やね』

 

レモンサワーで乾杯して、

掘りごたつの下で親指同士で探り合った。

 

二人で飲み会を抜け出し、

カラオケで散々そのバンドの歌を歌った。

 

 

履歴の最後のページに

 

僕らと同じ曲を入れ続けている人らがいて

 

繰り返される夜の一部分なんだろうなと

悪酔いする安いお酒を一気に流し込んだ。

 

 

翌朝、隣で目が覚めたAM11:30

 

その子はコンビニで買って帰った歯ブラシで歯磨きをしながら

 

僕の方をぼーっとながめていた。

 

 

『おはよう、ごめん昨日』と乾いた声をかけると

 

泡にあふれながら

 

「なんで謝んの」と笑いながら洗面所に駆けていった。

 

 

深い話はお互い踏み込まない。

 

いろんな人を通り過ぎて、

途中停車のようにして僕らは落ち合ったんだと思う。

 

寂しい夜を生き抜くための二人だったのかもしれない。

 

いつか終わりが来ることを、

いやそんなに遠い話じゃないな

 

このゆるく流れる幸せは長く続かないことを

 

始まっていた時から悟っていたから

 

お互い、写真を撮らなかった。

 

消すのも悲しいし、

遡った時にふと目に留まるのも遣る瀬無くなる。

 

振り返ればすぐ後を追っかけてくる寂しさから逃げて、

瞬間のぬるま湯につかってたんだ。

 

体の芯から温まることはなくて、

しばらくして風邪引くこともわかりながら、それでも。

 

 

 

あそこのコーヒーめっちゃ美味しいんだよ、と

 

飲めない僕にすすめてきたその子のおかげで

 

ついには飲めるようになってしまった。

 

ブラックは無理だけど、ミルクと砂糖をまぜて。

 

 

正面に座ってコーヒーを飲むその子の長いまつ毛を褒めると

 

「まつエクだからだよ、騙されるよ悪い女に、注意するんだよ」

 

とまた僕の靴を足で挟みながらヘラヘラ笑っていた。

 

 

笑った顔がかわいい、ってあのとき素直に言えなかった僕に

 

今になって心底失望してる。

 

 

今頃どうしてるんかな、花粉症の時期やけど

 

今年も目を赤くしてるんかな。

 

 

さっき寄ったカフェで

 

-お席片付けますので少々お待ちください-

 

って待たされた席のグラスに転がったストローの先に

 

がしがしに歯型が刻まれとって まさかな、 なんて思ってん。

 

 

 

一枚だけ あった。

 

嫌がるやろなと思って あっち向いた瞬間に。

 

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夕陽差す放課後、散らばったチョーク

 

疲れた

 

疲れてしまった

 

いろんなことに疲れたときに、僕はこのブログを開く。

 

誰も見ていないからだ。見ているとしても、僕を全肯定してくれるような優しい人だ。

 

いつのまにか勝手に自分にかけたプレッシャーから、
今日はいい言葉が浮かばない、と夜寝る前に悩み寝付けなくなるときがある。

 

このブログには駄文、悪文を連ねる。ボールペンで書いて、あー間違った、となったらシャッシャッと横棒2本重ねるような速度で連ねる。

 

この文章には写真を挟み込む余裕もない、本当にただただなぐり書きを連ねる。

 

何を書こうかも決まっていない。そうだ、これまでの人生を語る上で欠かせない

3人の女性の話をしよう。

20余年、老いてからみれば若い頃はそんな時期もあったなあ、と

いわば『黒歴史』と呼ぶのだろうが、そんな未熟者の僕にも忘れられない女性がいる。

 

一人目は、僕に性を教えてくれた人

二人目は、僕に音楽を教えてくれた人

三人目は、僕に恋を教えてくれた人

 

一人目、名前は何にしよう。夕陽ちゃんにしよう。

夕陽とは高校2年のときに仲良くなった。放課後、部活もせずだらだらと過ごす

茜色刺す教室での時間、男4人、女3人くらいでいつも一緒にいたのだ。

男友達はドラムのスティックを少年ジャンプに打ち付けて

組んでいるバンドの練習をしているやつ、ギターをかき鳴らしその時はやっていた

Janne Da Arcの歌を歌っているやつ、他校の彼女を待ってるやつがいた。

僕は教室のチョークを一番うしろの席から黒板に投げつけて割って遊んでいた。

散らばったチョークをスリッパで踏んで、広げて、教壇を真っ白に染めていた。

今思えば頭おかしいが、当時はそれが楽しかった。

 

毎日過ごす無限とも感じられる17時から19時。

【青春】と呼ぶにはあまりに色気のない毎日で

僕は夕陽と仲良くなった。

 

学年1スカートが短く、スラッと伸びた細い脚がきれいな

ショートボブの女の子だった。笑ったときに目がなくなるところが可愛かった。

誰でも言えそうな言葉を書いていて自分でも寒気がしてきた。

 

『センター分け似合わないと思うよ、流したほうがいい。』と夕陽に言われた次の日から、僕は前髪を横に流し、2009年にはマッシュヘアを先取りしていた。

夕陽は服のセンスがよく、僕らが育った片田舎では少し浮くくらいだった。

 

少しでも夕陽にダサいと思われたくない一心で、僕は雑誌を買い漁ったり、古着屋に足繁く通ったりした。僕は夕陽に一生懸命だった。

 

それでも僕は夕陽と付き合わなかった。付き合おうと言われても断っていた。

なぜか。

 

元カノのことが忘れられない、と言っているのが楽だったからだ。

僕は初恋を失ったあとから、とかく『別れ』というのが苦手になった。

夕陽と付き合いたい、よりも 夕陽と別れたくない という思いが僕をそうさせた。

 

夕陽は度々泣いた。高校2年生で《セフレ》という不名誉な称号を彼女に授けてしまったのだ。

『どうせ私はセフレだから、嫉妬する権利もないし、束縛する権利もない、風邪引いても心配していいのかわからないし、私のわがままなんて言えるわけない。』

そうやって泣いた。

 

自分のせいでこうなっているのに『ごめんね』というのもおかしいなと思い

その時僕は『でも夕陽が嫌になったらいつでも他の人に行っていいから』と

クソ男の模範解答を呟いていた。

 

高校2年生らしくカラオケや漫画喫茶でいろんなことをした。

あの頃の密室の価値は、この年になっていくら払おうとも得られない価値だった。

 

今でも帰省した時そのカラオケの側を通ると目を背けたくなる。

いい思い出にはできていない。カラオケで僕が福山雅治のはつ恋を歌うと夕陽は泣いた。

 

恋人には戻れないことも. わかってるよ でもこの真心を 永遠の恋と呼ばせて. せめて はつ恋と呼ばせて.

 

恋人にさえなれない2人でこの歌を歌って泣いていた。

ドリンクバーの烏龍茶を投げられて僕の制服が濡れたことを覚えている。

 

しばらくして、夕陽にちゃんと好きな人ができて、ちゃんと彼氏になって、

僕とは卒業までほとんど話さなくなって終わった。

 

何も美談じゃない。僕の高校時代はおおかた、この負の思い出の中にあって

 

彼女の初めての話は、僕みたいな自己防衛男のせいで

美しく清らかな思い出にはならなかった。

 

夕陽は今年、高校時代の僕の親友と結婚した。

 

もちろんその親友とも疎遠だ。ふたりにおめでとうを言えることはない。

 

おめでとうもごめんなさいも言えないまま、僕は東京で毎日を重ねて、消費して

 

それに変わる言葉を探している。美談じゃない高校時代の話。

 

一人目の忘れられない人の話。

 

二人目、三人目は、また気分が向いたら。

 

フィクションに決まってんだろ。真面目に読んで損した?知らんよ。

フィクションにしたいんだよ。全部。

 

おやすみ。

 

ノンフィクションフィクション

くしゃみをしていた。

 

この季節になるとあの子は目をかきむしり、鼻をかみ、くしゃみをしていた。

 

辛いんだね、と言ったものの

代わってあげたいとは全く思わず、丸まったティッシュを引き取り

さっき買ったコンビニの袋に投げ入れ結んだ。

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優しくあろうといい格好して本心では何も考えず生きていた僕の悪い癖。

 

神戸から上京したのは2015年の3月。

上京直前に、卒業式に袴で出席したあの子の写真を撮った。あいにくの曇天だった。

 

頭にさした花が綺麗だった。あの時僕はちゃんと 綺麗だね と伝えただろうか。

気の利く僕の性格だから、きっと伝えているだろう。

気を利かせて言った綺麗だねなんかいらないよな。

 

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娘のような彼女だった。

なんでも僕がやれてしまうから、本当は彼女がやれることも僕がなんでもやってしまっていた。

そのくせあの子に『なんでも委ねて娘みたいだな』と質の悪い植物みたいな棘でツンとしてしまったこともあった。許してくださいって今なら言える。言わないけど。

 

上京するときは、僕の誕生日が4月だからって、『すぐ会えるね』なんて言って

全然泣くような雰囲気でもなかった。新神戸駅のホームで手を振るあの子を覚えている。

 

ほどなくして遠距離に負け、関係はほどけた。

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僕はくしゃみが止まらない。

 

東京に出てきて5年目の春。これが花粉症というやつか。

鼻水は止まらず目がかゆい。誰か代わってくれよ。

 

ついこの前、あの子が来年の1月には結婚するかもしれないという話を聞いた。

心からおめでとうと思えた。興味をなくしたわけではない。

むしろ5年の間、どこか心の奥底にじっと体育座りしていて、たまに覗くと

やぁ元気かい、僕は元気だよ、たまには顔だしてね、と話しかけてくるような感情。

 

娘のようだったあの子は今、同棲中の彼のため、掃除洗濯炊事はもちろん確定申告のお手伝いなどもしているしい。

『親みたいなことしてんねん今。信じられへんやろ。』と困り笑いをかますあの子を見て、気を抜けば泣いてしまいそうな郷愁を感じた。

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結婚したらもう会えないね。という言葉に、凪を保っていた僕の心臓は揺れた。

 

『幸せになってください』なんて、最大級の別れの言葉だけど、今言えないと一生言えないままになるぞ。と思いつつ、連続で押し寄せたくしゃみのせいにして今はいいやと喉奥にしまった。

 

2人でくしゃみをした。

「やっと辛さわかったか。」とニヤつくあの子に、冗談めかして

『あのとき分かってあげられなくて すまん。色々。』  と返した。返せた。

 

「幸せになれるといいね、私も、あなたも。」あの子が口に出した言葉の温度感がちょうどよく、その答えで充分だと思った。

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何事も0か100かじゃなくてもいいですか。僕は君に今、20くらいだよ。

D.C(da capo)

 

あの日から続いていたラインを、ついに既読で終えてしまいました。

 

 

思い返せば2年前の4月、散り始めの桜を見ておこうと、知り合いの1人しかいないお花見会に参加したことからです。

 

 

『桜って苦手なんです。みんな5月、6月、だんだんと春から遠ざかって、

 

 

花びらを纏わない桜の木のこと、なんとも思わなくなるでしょ。

 

 

華って一瞬なんだなって、自分に言い聞かせられてる気がして。

 

 

あ、いや、僕に華があるとか、そういうことじゃないですよ?』

 

と申し訳なさそうに笑う貴方に恋に落ちました。

 

正確にいうと、落ちてしまったんですね。

 

ただ、ただ側に居られることだけで幸せを感じてしまっていたんです。

 

その煙草を唇に運ぶ指だとか

 

魚を綺麗に骨と身に分けてから食べる癖だとか

 

私が使った後のシャンプーのノズルの向きを正してくれたりだとか

 

毎朝歯ブラシ咥えながらお風呂掃除する、おそらく実家の習慣だったりだとか

 

深夜2時の人も車も通らない家の前の信号を、青になるまで待ってたりだとか。

 

 

 

 

そんなことを知るうちに青い夏がきて、赤い秋がきて、白い冬を過ぎたんです。

 

 

紡いではほつれていく、蜘蛛の巣のように

 

私たちは同じことを繰り返しました。

 

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いつも謙虚で、嫌味なの?と言いたくなるくらいの腰の低さで。

 

 

私のことをいつも気にかけてくれる貴方に、

 

 

だんだんと、口にすることができなくなっていたんです。

 

『私たちって、なんだっけ』なんて。

 

 

 

素直に好きと言えたなら、なんてそんなヒロインみたいなセリフ吐く資格すら

 

私にはないような気がして。

 

 

 

関係に名前がついたら終わりだよね』なんて

 

 

ちょっとかっこつけて赤ワイン揺らして、貴方から目を流して、本音を一緒に流し込んで。

 

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あんなに綺麗にドライフラワーぶって、貴方の前で取り繕わなければよかった。

 

 

 

どっちでもいいよとか、なんでもいいよとか、人によるよとか、場合によるよとか、

そういう期待ない適当な返事ばっかしていた私だったはずなのに。

 

 

少しでも気に入られたくって

 

餃子の気分だなって言ってみたり、

 

 

タクシー拾う手を無理矢理繋いで、三駅くらいなら歩きたいなんて言ってみたり。

 

 

ヒロイン気取って気持ちよくなって、あなたと繋がって、気持ちよくなって。

 

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貴方は驚いてくれるのかな。見透かされてたりするのかな。

 

 

 

 

 

私、本当はね、そんな綺麗な可愛らしい、わかってる風な女じゃないんです。

 

 

 

 

 

本当は貴方が欲しいし、貴方に会いたいって駄々こねたいし、喧嘩だってしてみたいし

 

電話切りたくない、とか言ってみたかったし。

 

 

 

 

貴方となんとなくで会わなくなってから、会えなくなってから

 

私の生活は少しずつ変わっていきました。少しだけどね。

 

 

 

 

 

 

もう私の服に煙草が香ることはなくなりました。

 

骨の多い魚は食べなくなりました。

 

シャンプー、ボディソープ、メイク落とし、トリートメント、洗顔なんてデタラメな順番に並んでても平気です。

 

あのとき白かった浴槽に今は、水アカがこびり付いてます。

 

赤信号だって、本当は、右も左も、もう一度右も見ずに渡っちゃいます。

 

これが私です。実は。

 

 

それでね。

 

 

私は今日、貴方じゃない人と、永遠の愛を誓います。』

 

 

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貴方は驚いてくれるのかな。

 

 

そんな言葉を最後に貴方に。鍵をかけるように貴方に。

 

 

 

 

 

 

髪は綺麗にセットされました。白く長い尾を引く私を見て

 

 

お父さんもお母さんも、泣いてくれてます。

 

 

 

高校の同級生も、綺麗だよって、おめでとうって。笑顔で泣いてくれてます。

 

 

 

彼は緊張してるみたいで、大丈夫?と私に聞きながら、全然大丈夫そうじゃなくて笑っちゃいます。

 

 

10:53 『貴方の隣で咲いてる間、幸せでした。いってきます。』

 

長い文章を打ち終わって、席を立ちました。

 

 

 

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ずっと私の一番大事な人が、大事だった人が最後に送ってくれた言葉です。

 

『おめでとう。ごめんね。ありがとう。

 

そういえば、春がきますね。

 

幸せに、なってください。』

 

D.C

溶けるまで

 

 

“ねえねえねえ。夏のせいにすればいい、って歌あるの知ってる?甲高い声で歌うの。”

 

 

知ってる。3年前くらいに好きだったバンドの曲だ。

好きだったバンドの新曲は、全く知らない。

好きだった人のために好きになったバンドだった気がする。

 

 

 

“季節のせいにするの、季節の奴隷だよね。春には花見、夏には海、秋には,,,何?紅葉?、冬はクリスマス。いやなんだよね決められた4つを通って1年終了、また大晦日、みたいなの”

 

ふーん。と夏にしっかり公園で半分に割ったチューブアイスをくわえる君を見ていた。

 

「夜 公園」の画像検索結果

 

まだ蝉が鳴かないだけましだった。

梅雨が明けたのかどうなのかわからない、暑さの真似事をしたような気温の夜。

 

試しに『今度どっかいく?湘南とか。まあ映画でも良いけど』と下投げの緩い言葉を投げてみた

 

 

“え!いきたい!映画も行きたいけど、いってくれるの!ほんと!?”

 

打った。フルスイングで。

いつ?いついく?車?と続けざまに重ねる口調がかわいかった。

 

『いろいろ考えとくね』

 

そう言うと君は唇をぐっと中にしまって大きくうなずいた。

犬のしっぽのようだった。

悟られないように、悟られないようにとしていたのが伝わる。

 

 

 

 

 

僕たちには街灯の下で歩くくらいの思い出しかない。

それを思い出と呼ぶのかは分からない。

きっと都合のいいことを言って、僕は湘南にはいかない。

 

 

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僕たちには名前がない。

僕には名前があって、君にも顔に似つかわしくない名前がある。

だけど僕たちには名前がない。

夫婦でもない、彼氏彼女でもない、男女の友達、でもない。

 

 

誕生日聴いた気がする。冬、だった気がする。

富山出身だっけ。この前言ってた気がする。

お父さん学校の先生?だっけ、なんかうっすらと。

 

 

全然そういうの覚えられなくて、

どうでもいいことばっかりが礼儀正しく並んでた。

 

 

緑茶より麦茶が好き

歯ブラシを噛む

髪を少し濡らしたまま布団にもぐりこむ

寝る直前までカラコンを外さない

背中を向けて眠る

朝起きると背中にくっついてる

嬉しい事が有ると唇をぐっと結んで眉をあげる

癇に障る事が有ると“ねえ”って三回繰り返す

 

別れ話が、下手

 

 

 

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別れたいんだけどなんて言えば良いか分からない

と泣いてた君は

もう僕とこんな感じで3ヶ月

散った桜を避けて歩いていた君をかわいいと思った

海にいこうかと口に出すとしっぽ振っている君をかわいいと思った

 

 

そんな君に、そろそろ別れ方を教えてあげなきゃ

 

 

『君がさよならを言いたくない人、には、僕はなれなさそうだから。』

 

 

 

 

 

 

チューブアイスは、夏のせいで溶けていった

 

 

手紙。

祖母から見せてもらった手紙。
祖父のプロポーズの手紙。
口下手だから手紙を読んでください、と
目の前で渡されたらしい。

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『突然ですが、
僕と一緒に生きてはくれませんか。

人は賢くないから
失ってからしか愛する人の大切さを
身を以て知ることが出来ないそうです。

僕は貴女を大切に思っています。
世界で一番と言うには世界を知らなすぎるから
僕のこれまでの人生で一番、と言っておきます。

僕は貴女と、しわしわになるまで、孫やひ孫に囲まれるまで、隣に居たいと思っています。

別れの日はいつか突然来るでしょう。
私は貴女を置いて逝くような、
そんな無責任な人生の終りはしたくありません。

貴女の居なくなった世界は
どんな色をしているのでしょう。
大切な人を、失う前から大切だと思っていても
それでも何か気付くことがあるのでしょうか。

私はそれを知りたい。
貴女より大切なものはなかったな、と
やっぱりな、と
答え合わせをして、貴女のもとへ向かいたい。

貴女を何より大切にします。

僕と一緒に生きてはくれませんか。』

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